心理と戦略の基本

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『投資苑』
世界の投資家が読む...

心理と戦略の基本...

■内容は心理・戦略・資金管理
■トレーダーが損をする3つの理由
■各種テクニカルの解説がメイン
■1993年に著作なので記述されている情報が古い
■よろしくない翻訳が直観的な理解を妨げている

 

 

『投資苑』のレビュー

 
■心理・戦略・資金管理
  投資苑と云えばさまざまなテクニカルを解説している書籍というのが一般的な評価ですが、全体の3分の2が「戦略」の章で著されています。「心理」と「資金管理」は「戦略」に比べれば内容的に薄いので、最初からその意味を理解することにこだわらずに、さらりと読み物として読んでもらって構わないと思います。それは具体的な事象を取り上げてから一般化していく解説手法で、その具体的事象が我々日本の社会よりは欧米社会・文化に根差している傾向が強いので、すっと直観的に馴染むものではないように感じます。たとえば、トレードをしすぎるというのは強い刺激を求めているのと同じことなので、その療法にはアルコール中毒患者を治療するものと同じプロセスが適用できるであろうという事例解説がありますが、重大な問題ではあるけれども、日本社会では多くの人々が意見を交わせるテーマではなく、どちらかというとマイノリティなテーマになってしまうのでより多くの人の共感を得にくくなってしまいます。しかし実際に自分自身のトレーディングの体験を積み上げてくるとこの「アルコール中毒」の事例がよく理解できるようになります。ですから「心理」と「資金管理」の章はトレーディングの実践を反省するときに後から読み直していただくと非常に有効的書物であると認識できます。

 
■トレーダーが損をする3つの理由
  冒頭の『投資家のマインドセット』の記事でも書かせていただいている通り、以下の3つの理由があげられます。これは他ならぬ『投資苑』から引用して易訳した事項です。

 

1.トレーディングというゲームは難しいものであると理解すること。
2.投資家(トレーダー)の勉強不足からくる無知によるもの。
3.ルール無しでのトレーディングによるもの。

 
  1.トレーディングは少なくとも誰にでも成功できるものではありません。最近はネット証券が増えてきたので誰でも無料で口座開設ができますが、やはり初心者の方が何も知らない状態で口座を開設することは難しいと思います。予め自分で勉強するか、専門の方や窓口にアドバイスを求めないと無理だと思います。例えばネット証券口座をオンラインで開設する時に(無資格で)具体的指示や誘導すると「金融商品取引法違反(無登録投資助言・代理業)の疑い」に抵触するので、最初から自身で判断する予備知識が必要とされます。また、一度相場にエントリーしてしまうと価格変動の情報は信憑性を確認する時間は無くリアルタイムで変化していくので、当初決めたルールに従ってイクジット・ポイントを目指していくだけです。そのとき頼りになるのは自分の判断力だけです。わかりやすく云うと成功できるのは「成功するための筋道が見えた人たち」といってもよいかもしれません。多くの人がその筋道が見える前に消えていってしまうというのが実情に思えます。

 
  2.あなたもトレードで成功するための勉強をしているはずなのですが、実は本当に成功するための勉強とは違う方向だったりするということです。私も含めてあなたも他に本業があって、仕事が終わってから夜一人でパソコンに向かっているトレーダーかも知れません。昼間空いた時間にスマホで取引しているトレーダーかも知れません。今は副業的な位置づけのトレーディングかも知れないけど、いずれは大きく稼いで本業のトレーダーとして生計立てていくつもりなら、リスクを考えないトレーディングはしないはずです。成功したトレーダは、たとえアマチュア・トレーダーであっても本質的なメンタルの姿勢やトレーディングに対する考え方は限りなくプロフェッショナルに近づくはずです。この本の原題が”TRADING FOR A LIVING”と名付けられているのはそのことを示していると思います。

 
  3.著者はしばしば「…トレーディングの日記」をつけるように勧めてきます。ルールを決めてトレーディングを行っていても、日記をつけていなければなぜ負けたのか、そのときのエントリーの時刻、相場の状況は克明に記憶しておくことは無理ですし、何が原因だったのか後から検証するすべがありません。ましてやルール無しのトレーディングでは比較元が存在しないのですから修正点すら見つかりません。また自動売買のシストレの場合、ある程度の売買の条件、手法は予め把握しているので、裁量制トレーディングよりも正確に定められたルールに従ってトレーディングを行います。そのため日記の緻密性の負担は軽減されるかも知れませんが、運用前にバックテストやフォワードテスト、デモトレーディングを行いEAのトレーディング・ルールについてしっかりと理解しておく必要があります。また、その日の取引データとともに記録(日記)も必要となるでしょう。ともかくルール無しでのトレーディングはギャンブルに近いというのが私の所感です。

 
■各種テクニカルの解説
  やはり、しっかりとテクニカル分析を勉強したい人には良書だと思います。インターネット上にも図や数式をくわえて細かに解説しているサイトもありますが、どうしても掲載者の思い入れや主張がうざとくなり、投資判断の迷いを生む要因となりかねないので、冷静に判断したいケースは本書を読み返すようにしています。また、EAなどのシストレ・プログラムを解析するときも、作成者の意図や条件判定基準の考え方を分析する基準になるので読み返すようにしています。最近注目しているMACDに関しても、MACD、MACDシグナルに加えて、MACDヒストグラムについて解説している書籍は少ないため大変参考になります。書籍の価格としては比較的高価ではありますが、すべてを読み倒すほどには使い果たした感はないので、まだまだ読み返すたびに新しい発見がある書籍です。

 
■1993年に著作なので記述されている情報が古い
  著作年代はコンピューターも現在のように1人に1台のような使用頻度ではなく、業務時間帯の決まった時間に専任担当者が集中して入力ような運用で、事業所に中型オフコンが1台、端末が2台で、本社のホストコンピュータと専用線接続して使用するネットワーク形態が主流でした。すでに電話回線をモデムで接続してインターネット・サービスを提供する会社はいくつかありましたが、回線速度が現在とは比べ物ならないほど遅く、個人で画像配信や金融取引に使用する事例は皆無でした。いっぽう、欧米諸国や東南アジア等の発展途上国ではブロードバンド・サービスが定着しており、すでにインターネットを利用したビジネスモデルの開発が盛んに行われていました。日本国内ではようやく通信事業が民営化された直後で通信回線は遅くて高価な後進国並みの水準だったと云えます。とはいうものの欧米社会でも、トレーディングに誰しもが高性能コンピューターを使用できたのではないはずで、動作するトレーディングシステム自体も研究開発段階だったものと思われます。ですから時間軸も月足、週足の図表がほとんどで数式モデルの理論や分析するうえでは問題ないですが、現在のような時間足、分足が当たり前のチャートを見てトレーディングする世代の方々にとっては違和感を覚えざるを得無いでしょう。このへんは教科書に載っている標本として取り扱っていくより術がありません。

 
■よろしくない翻訳が直観的な理解を妨げている
  冒頭の「心理・戦略…」で記している通り、著者は欧米社会の事象を題材としてトレーディングの一般的要素を解説しようとするため、日本社会で暮らす我々には一読しただけで脳裏にイメージが湧く文体にはなっていません。翻訳者がそういった特殊事情のある論理展開に追隋するため、あえてこれら欧米諸国の言語を直訳した文体を用いているとも考えられます。そういった意味では今日一日のトレーディングを振り返るタイミングで読み返す書籍ではなく、じっくりと思索をめぐらすとか、自分のトレードスタイルを再点検するときに読み直した方がより効果的であると考えられます。秀作な書物ではありますが、いつでも傍らに置いておけば即座に答が導き出されるという代物ではないようです。

 

 

『投資苑』の評価ポイント

 

総合評価 ranking07-006
投資初心者 ranking07-008
投資家への貢献度 ranking07-006
販売価格 ranking07-009
コメント いわゆる「黙って読め」系のリファレンス良書。
読み応え十分な書籍であるが、読み返すたびに新しい発見があり、
投資家を志す方々には必携の書籍。
ある程度の価格なのでそれなりの決意が必要。

 
  以上、『投資苑』レビュー解説でした。最後まで読んで頂いてありがとうございます!


 


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